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行き止まりは、どこにもなかった

行き止まりは、どこにもなかった

新!コテ派な日々~第二十三話~(番外?Dead Data@第十三話)

ある所にロドクと言う名のコテが居た。彼はコテであり人間でもあった。

その彼は現実の世界でチャットに入り浸り、社会では所謂引きこもりであった。

だが、そんな彼な訳だから、チャットでも次第に周りと合わなくなっていく。

結果、彼はチャットでさえも居場所を失った。その次に彼が考えたのは、自分だけの世界を作る事だった。

それその物は簡単だった。彼は創作書きでもあったから。適当なキャラクターを作るのは造作も無い事だった。

世界を作る事もまた、そう大変ではなかった。元々行っていたチャットは箱庭の様な形のチャットで

マップの中を移動したりしながらチャットが出来る場所だったが、それを丸ごと自分の精神世界に流用した。

そうしてチャットを元に完成した精神世界。俗に皆から街と呼ばれる事になったこの場所で

ロドクはこれまでと同じ様に、自分だけの世界で引き篭もって遊んでいた…。

しかし、成長は、彼の作ったキャラクターたちでさえしていく物だった。

いつしかそうして作られたキャラクター達はロドクの想定した人格の枠組みを超え、

彼の想像した以上の事を成すようになっていった。

街に新たな建物を建て、綺麗な花壇を作り、不思議な技術の機械を組み上げ、謎の能力に目覚めていった。

そうした中で再び一人置いていかれるロドク。なぜ、皆ずっと同じままで居ないのか?

なぜ皆すぐ育ってしまうのか。そして自分はなぜ育たないのか。

違う。

育つ事は何も良い事じゃない。子供心を失い枯れていくただの呪いでしかない。

自分しか、育たないで居る事は出来ない。自分こそが、正さないといけない。

自分にしか出来ないのだ。この世界を元々作ったのは自分だ。ならば自分こそが神だ。

粛清を、天罰を、世界に、この世界に住まう全ての人間に与えねばならない!!

この世界の元の媒体はチャットやネットの世界だった。なら、その元は0と1のプログラムで出来た存在。

それらを圧倒するにはどんな能力が必要か。

ロドクは考え、生み出した。

コンピューターウィルスと言う名のこの世界専用の病原体を。

そして、それを扱う事が出来る病原体で身体を組み上げた自分のコテを。

一番最初に“激撃激”が生まれた。だが、このコテはロドクの子供の心を分けて作られたからか、制御が効かなかった。

二人目に、ユキが生まれた。このコテは非常に優秀だった。だが、倫理観に厳しく、邪魔になった。


3人目に閃光騨が、4人目に糊塗霧隙羽が、

5人目にかてないさかなと死忘が、6人目にヤキムシが、7人目にsiwasugutikakuniが生まれた。

このメンバーでロドクは、世界を破壊し、修正する事に決めた。



だが、このメンバーですら、反発や裏切り、そして成長していく様子を感じてしまった。



一番最初にユキが、幼い子どもを殺さず逃した。 ロドクは怒り狂い、ウィルスとは違う形でその存在を全て消し去った。

続いて、激撃激が、癇癪を起こして暴れ、ロドクに攻撃した。ユキと同じく、その存在を消し去った。


ヤキムシが、あまりに火種を撒きすぎるせいで予定より損害が出た。siwasugutikakuniが不安定すぎて味方にまで損害がでた。

だから、二人の人格を奪い去り、ただ命令に従うだけの動物と機械の様な生命体に作り変えられた。


そうして、街の破壊は進んでいき、コテは誰一人居なくなって行った。ある一人を除いて…。




そのコテは、ずっと忘れられていたコテで、適当な住人の一人だった。

容姿の設定や性格の設定すらテキトーで資料が残っていない程の陰の薄さ。

そのくせ、ロドクと同等の思考力を持つ男。“心金柑”。

彼は、唯一ロドクと並んで戦えるコテだった。

だからこそ、ロドクは敢えてそいつを一撃で葬る事はしなかった。

じわじわとウィルスに蝕まれながら、彼は最期まで戦った。戦闘ではなく、情報で。

その最中、Dead Dataと出会った。


彼は、すぐに彼女が何者か分かった。そしてその特性にもすぐに気がついた。

ロドクが最初に定めたこの世界に於ける死。

それは外傷や病気、寿命以外ではロドクの持つ“コンピューターウィルス”による死のみ。

それ以外の方法、ロドクが個人的に削除すると言った方法によって生まれたエラー状態。

コテとしての情報が全て削除されて居るがコテとして成り立っているイレギュラー。

その為、ウィルスによる侵食を受け付けず、唯一、“ロドクが作った修正の為のコテ”に真正面から戦いを挑める物。

偶然が、この世界を救う切っ掛けを、世界そのものが世界を守ろうとしたとも言える様な奇跡を生んだ。

だが、元は修正の為のコテ。だからこそ彼にとって賭けだった。

本人たちが本当に世界を救うか、世界を滅ぼすか。

ロドクに消されたユキと激撃激。それこそがDead Dataの正体。

そして、それが鍵を握る理由でもあった。













やる事は済んだ。ただ、異常に時間が掛かるらしく完了はしていないがな。

しかし、あれだな。本来の口調はこれじゃないんだが、ある程度長くやってると慣れる物なのか。

結局こちらの方が使い勝手がよく感じる。まぁ、口に出す言葉は元の方がいいんだけども。

そしてそもそもそう長くないけどな。

さて、ビルの前にまで戻ってきた俺は、じっと例のパスワードを睨む。

ま、今の俺にはこんな物、無いも同然なんだけどな。

俺は、隠れ家に戻って色々やってる間に完全に記憶を取り戻していた。

そして、その記憶は驚いた事に俺一人の物じゃなく、ロドクの物も含まれていた。

元々の生まれはロドクが作ったから、ってのもあるが俺はロドクの一部を貰う形で生まれている。

それもあってだろう。だからこそ分かる。俺が切り捨てられた理由は、制御が効かなかった事だけじゃない。

俺の存在そのものが奴にとっては禁忌だった。そして、禁忌だからこそ…。


スッと俺はビルの前に浮かんでいる、パスワード入力画面に手を触れる。

そして、大きく振りかぶると、力いっぱい、殴りつけた。


「パスワード…ってのは、これの事だろ!!あぁん!!?」


ビシッ、とヒビが入り、入力画面に【認証完了】の文字が浮かんだ瞬間。

ゴガッシャァアアアアン!!と大きな音をたて、壁は粉々に崩れた。

…言っておくが力づくで壊したとかそういう訳じゃねーからなこれ。

ま、その辺は追々説明するとして。ってのもな…。

俺はビルの扉を開く。すると、そこにはズラッと大量のコテが並んでいた。


「そういやぁ、まだ倒してなかったもんな…ええい面倒くせぇなぁ!ひとまとめなだけマシってか!ざけんな!」


扉の先に並んでいたのはヤキムシとsiwasugutikakuni。

siwaの方は一度機能が止まった様に見えたがやっぱり死んではなかったらしい。

ギリギリの土壇場で復活が間に合いでもしたのか、全部まとめて置いてる辺り、向こうも総力戦って所か?


「けどなぁ!今更お前ら程度、俺を止めれると思うなよぉおおっぁあぁああ!!!」


俺は自分の専用銃を変形させ、両腕に小型の物を付け、走り出す。

やっぱ二刀流っていいよな、沢山仕留めるのにはこれだよこれ。


「よーっしゃぁ!一気にカタつけんぞ来いガラクタと害虫ぅううあぁあ!!」


直後、ビルの1階は爆炎が上がる事となる。すぐに終わるなよ、つまんねーからな!












「……20、19、18、17。」


暗く、一際広い部屋。ビルの中で唯一、他より綺麗にまとまった一室にロドクは居た。

そこは普段、他のコテ達が謁見に来る部屋。

ロドクはこの状況でも普段と変わる事無く、その中心で体育座りをし、小さく呟いていた。

その正面には、古めのパソコンが置いてあり、その画面にチャットのログイン画面が開いていた。

ロドクが呟く数字は、そこに写るチャットの参加人数の欄だ。

しかし、その虚ろでどこを見ているか分からないロドクの瞳では本当に見ている様には見えない。

ただ、呟く数字は正確に、1つずつ減っていくチャットの参加人数の数字を読み上げていた。


「10、9、8、7、6……」


ガァンッ!!ボォンボォンボォン!! ズドンッ!!

数字の桁が減り、外から聞こえてきていた爆音はじわじわこの部屋に近づいて来ている。

それでさえも、ロドクは取り乱した様子も無く、変わらず淡々と数字を読み上げていた。


「5、4、3、2、1…。」


ガンッ!!

ついに数字は1つだけとなり、扉の外から扉を叩く音が聞こえてくる。

それを聞きながら、ロドクはゆっくりと立ち上がった。

ドゴォンッ!!!

ついに、扉が破壊され、何者かが飛び込んでくる。

ロドクは背を向けたままだが、その侵入者に聞こえる様にか、今までよりも大きく、低い声で呟いた。


「0、だ…」


ロドクはずっと待っていた。

自分のコテの一人がやられ、その敵が自分の元へやってくるのを。

しかし、それは自分が倒される為にわざとやっただとかそう言う殊勝な意味合いではない。

ロドクは既に自分のコテすらも見限っていたのだ。

しかし直接手を下すのは面倒臭いし演出としても微妙だ。

だからこそ、敵にやられ、全滅されるのこそが望ましいと計画を切り替えていた。

そして、彼の描くシナリオでは、その未知の敵がついに自分と対峙する所まで織り込み済み。

その後の展開は、自分の圧倒的な力に侵入してきた敵は倒れ、ついに世界のコテは全て浄化される。

そこから、新たな世界は始まる。それでこそ、自分の正しさが証明される。

そう、これは運命だった。コテの一人が殺された時は動揺したが、このシナリをを作る為に必要な流れだったのだ。

さぁ、掛かってこい侵入者。お前さえ倒せばこの世界はハッピーエンド。

あらゆる苦痛の無い幸せな世界が待っている。そうだろう。その筈だ!

ロドクは高鳴る胸を押さえ付けながら、慎重に、考えた言葉を間違えない様に吐き出す。

勇者が、ラスボスに対峙した時。

本来、先に言葉を掛けるのはラスボス、敵の側だがそこはオリジナリティがあった方がいい。

だから、自分が言う。

ロドクは息を吸い、なるべく重厚に、威厳を持った声を出す様努めて喋り始めた。


「ついにここまでやって来たか、白いコテよ。ここまでやられるとは正直思っていなかった」

「だが、それもここまでだ。お前を止めてこの世界に平和をもたらす。その為にお前には悪いが俺は全力で戦う」

「しかし、それだけの力を持つんだ。ここは戦わず、お互いに協力するというのはどうだ?」

「二人の力なら、新たに創られる世界…その構想は更に自由度が増すし、無限大だろう。どうだ。」


侵入者は倒さなければならない。だが、それでも平等に選択肢を与える。

侵入者を気遣いつつも、自分の正義は貫く。そんなセリフを言えたとロドクは自負していた。

しかし、そのセリフは傍から見れば寧ろラスボス…

…どこかのRPGで「世界の半分をやろう!」というのと変わりないと切って捨てられる事だろう。

しかし、それすらわからぬ程にロドクの視野は狭くなっており、

独り善がりな正義とネガティブかつポジティブな黒い心に埋もれていた。

ロドクは相手の答えを待つ。どちらを選んでもシナリオは用意されている。さぁ、ハッピーエンドを選ぶんだ!


「ガキが暴れてるだけが自由ってか?馬鹿いってんじゃねーよ。んなもんただの孤独にしかならんだろ」


!?

ロドクはどちらともない返答をして来た侵入者の言葉と、その声に驚きついに振り向く。

そして、そこに立っているコテの姿を見て、震え始めた。


「まさか…馬鹿な!!何故だ!!何故お前が…違う!侵入者がお前じゃダメだ!!こんな事…俺のシナリオと違う!!」


ロドクは地面を強くダンッ!!と踏み込む。瞬間、普段と同じ防御の陣…ガラスの壁が競り上がり、ロドクを囲んだ。

しかしそれを見ても侵入者はにやりと笑うだけで、つかつかとロドクの傍に歩み寄ってきた。

ロドクのこの防御陣…その正体は実はこのビルを塞いでいたパスワード入力画面と同等のもの。

パスがない限りは攻撃だろうと人間だろうと何一つ通す事はないロドク専用の絶対無敵の防御。

だが…。


「無駄だよ。もう分かってんだろ?俺が誰だか、さ」


ガッシャァアアアアアアン!!!!

侵入者の拳は、容易くガラスを突き破り、ロドクの顔面に深くめり込んだ。

そして、そのまま振り抜いた勢いで、ロドクは地面に叩き付けられたのち、壁の方まで転がっていった。

未だ混乱するロドクは壁に叩き付けられたままの体勢で動けぬまま、侵入者を見ている。

黄色い体色で、左手に銃を構えたそのコテは、にっ、と笑うと、ロドクに向かって、何かを投げつけた。

パシャンッ!

その何かが割れ、中身の液体がロドクへと降りかかる。

瞬間、ロドクの身体に痛みが走り、更には倦怠感が襲ってきた。

これは…一体…なんだ…!?


「これで、おしまいだよ。てめぇのくっだらねぇシナリオだとか言う奴はな。」


侵入者はにやりと笑い、宣言する。

終わり?馬鹿な。まだ始まったばかりだ。それにそれを決めるのは断じてお前等ではない。

神である、この俺…

なんだ?どうした…。ウィルスが、動かない…。どうして?そんな…












激しい戦闘もなく、何とか一方的に終わりそうで正直ホッとしている。

俺が奴にぶちまけたのは心金柑が作り出していたウィルスの特効薬。

薬、と言うがその効能はまぁウィルスバスターとかみたいなプログラムに近い。

ロドクの持つウィルスの削除とそのウィルスへのアクセス権限を奪う効力を持つソフト。

言われた通り、他のコテを全滅させた上でロドクにこれをぶちまけた。この時点で勝負はついた訳だ。

さて、これまで引っ張ってきた所で、俺の正体の答え合わせと行こう。

俺の名は激撃激。ロドクの幼心の半分を受け取ったコテであり、

ロドクがロドクになる前…最初に名乗った名前で最古のコテだ。

その思い入れから、ロドクは俺の名前をあらゆる場所でこっそり使っている。

それこそ、例えばパスワードなんかにもな。そう。だから俺は奴の防御陣を容易く破壊出来る。

俺そのものがパスワードなんだから鍵を突っ込まれて開かない扉なんか無いって話だ。

だからこそ、俺自身が封印された訳だ。俺の名前を知る物が居なければ、パスワードを開ける物はどこにも無くなるから。

しかし、それを心金柑は知っていた。

アイツ自身、結構適当な扱いのコテだが実は俺と同じくらい古株のコテだ。

アレもまた割とロドクの事情には詳しい。

だからこそ、敢えて自分の大事な物にも同じパスワードを使った。

そうしておけば、禁忌である俺の名前をまさか他に使う奴が居ると思わないロドクは絶対に開けないし

アイツも言ってたが、ロドクは古いものや壊れた物、曰く付きのものでも敢えて残したがる。

だから、もし仮に見つかっても開けないが故に放置されるのは確実だろう、と言ってた訳だ。

しっかしなぁ。鍵になる、とは言われてたけどそれがマジで比喩表現じゃなくて直接表現とは思わなかったわ…。


「おま…え…!!お前は…!!」


ギリギリとロドクは歯軋りをしながら俺を睨む。

恐らくだが、コイツは色々状況に酔ってる感じだったし、予想外のこの展開は相当堪えてるんだろう。

まず、俺が存在してる事自体計算外だろうしな。俺の存在自体禁忌だもの。

謎の侵入者が俺って事でさぞガッカリしてるんだろうが知った事か。

コイツのやった事、やろうとしている事は全て間違っている。だからこそ、正される。

だからこそ、出てきたのも俺なんだろう。ロドクの半身みたいなもんだからな。


「何故、よりにもよってお前なんだ…下品なお前なんだ…!!」

「…(´・ω・`)知らんがな。つーか下品ってなんだよ、あれか?うんちうーんちうーんち♪」

「やめろ糞ガキがぁあああ!!何の捻りも無い下ネタ何かゴミ同然だ!!!」

「えー、面白いのに?」


ドゴォンッ!!

挑発しまくっていた所、ロドクが突如地面を強く殴り、立ち上がる。

その地面はへこみ、大きくヒビが入っているが…え、どういう事?


「何が終わったと言うんだ…?なぁ、激撃激よ…!!」

「は?さっきのが何かわかってねーのか?ウィルスの特効薬だぞ!」

「俺の力がウィルスだけだと思うなよ…!!」


そう言うとロドクはこちらに向けて、何かを投げつけてきた。

ドロっと濁った緑の球。それは、俺の足元に落ち、ずるりと広がると…

  ジュカイ
「“呪壊”…!!」


そこから、大量の尖った枝が伸び、真っ直ぐ天井へと伸びていった。

その枝には骸骨や腐った死体、首吊り死体何かがぶら下がっていたやたらとおどろおどろしい。

しかもその攻撃はまだ終わっていない。どろどろと解ける様に流れる緑の玉の緑の液体。

それが広がった場所から同じ様な尖った枝は伸び続け、俺を追いかけてきているのだ。


「これは…木の力…?くっ!」


突然の攻撃に体勢を崩していた俺は何とか転がる様にひたすら下がっていく。

その間にも枝はどんどん増えていき、気づけばロドクの姿を見失っていた。


  シンカイ
「“芯壊”…!!」


枝を押し流す様に、濁流が一気に溢れ出てくる。

その水からは黒い手が幾つも伸び、水に引き摺りこもうとしている様子だ。


「くそっ!ぐっ…!!」


幾つもの手に絡め取られ、俺は水の中に引きずり込まれる。

そして、そのまま藻掻いてる内に水は壁にぶち当たり、弾けた。

俺はその時思い切り壁に叩き付けられてしまう。


「ぐぅぁぁっ・・!!!」


その間にも更に攻撃は襲ってくる。

ドスンッ、と目の前に金色の髑髏が落ちてきた。

その数はどんどんと増えていき、今にも俺を埋め尽くそうとしている。

  キンカイ
「“禁壊”…!ヒャハ、ヒャハハ!!ヒャァーハハハハハ!!!」


それを避けると今度は地面がずるり、とぬかるんで居た。

そこに足を取られ、動けないでいるとそのぬかるみが壁にまで達して、

壁が全てぬかるみに変わり、どろりと倒れ込んできた。


  ドカイ
「“弩壊”!!く、ククククククク!!!」


グチャァッ!!

水分を含んだ土は非常に重たく、俺の身体に伸し掛かり、完全に動きを封じていた。

そこへ、両手から俺の専用銃と同じ様な…更に髑髏や蛇なんかの装飾が増えた様なエグいデザインの物を構えて迫る。

  カバネカグラ
「“屍火喰”…」


ボォゥン!!

火を纏った髑髏の弾が俺の身体にぶつかり、一瞬で泥を全て跳ね飛ばした。

その威力も然ることながら、髑髏が俺の身体に噛み付いて離れない。


「くそ、がぁっ!!」


力任せに叩き割り、何とか開放されるも、今の一連の攻撃俺は一気にボロボロになった。

なんなんだ、アイツ…ウィルスだけの奴じゃなかったのか?何故ここまで力を持つんだ…!!


「あーのさぁ…俺なぁ…元々神なんだよー…この世界を作ったコテなんだ」

「じゃぁそりゃぁ、何でも出来るよぉ。他のコテだって皆属性はそれぞれ違ったりしたじゃん、俺のコテなのにぃ…」

「だったら、俺それ全部持っててもおかしくないじゃんねぇ?ねぇえ!!ねぇったらさぁあああ!!」


ロドクは、色々振り切れたのか先程と違い壊れたのような笑いを見せ、俺に近づく。

まずい。完全にこれは考えてなかった。ロドクは、ウィルスに頼った。

だから自分の力を磨くよりもウィルスの力を使い強くなっている物だと思っていたが、本人の力も十分に桁違いだった。

それも当然の話ではあった。アイツ自身が言う様に、ここは奴の作った世界。それ程の力があるなら

それらを戦いに割り振れば圧倒的な事は当然だった…!!迂闊過ぎた!

そもそも、奴が何故そこまで力を持つのか…?本来同じただのコテの筈なのに。








その疑問の答えは、非常にシンプルな物だった。

激撃激や他のコテと違って、ロドクはただのコテではなかった。それだけだ。

彼らコテとは、本来人間のネット上の単なる別名、その分身に姿を持たせたものだ。

だが、ロドクの場合は分身ではなく、その“人間そのもの”が入り込んでいた。

それだけでも他のコテとは大きく違うのだが、この世界が精神内という架空の空間である事、

そしてそこを管理し、好きに創造が出来る事。その為の力を持つ必要がロドクと言う存在にあった事。

それらが重なり、ロドクの力は必要以上にこの世界で大きく、過度に強力となってしまっていた。

しかも、そこに“人間であるからこそ”の限界も生まれていた。

本来、現実の人間は特殊な能力を持つだけでも負荷になる。それ程人間は繊細なのだ。

だが、ロドクは精神世界内だから、と人間では持ち得ない程の強力な能力を持ち、それを自由に使えていた。

その為にロドクの人間である部分は負荷に耐えきれず、結果として暴走しかけている。

それが今のロドクの状況なのだ。そのロドクを止めるとしたら、同等の力が必要となる。

それには、激撃激一人では、あまりに足りなすぎたのだ。





「く、そ…」



意識が遠のく。

ロドクが、次の攻撃を行おうと既に構えていると言うのに、立って逃げる事が出来ない。

あと少しの所まで来たのに、ここまでなのか…?

俺の力じゃ奴には届かないのか…?

くそ、街だけでも守ろうと…そう誓ったのに、それすら守れないのか…。


「うーい、激撃激ぃ…懺悔済んだ?遺言終わり?後悔した?
          うん、したよ!きっとシタヨ!よーし、死のぉーかーぁ…」


ケタケタと不気味に笑いながら、ロドクの持つ銃の銃口俺の頭に触れる。

これまで、か…。

絶望的な状況に、俺は目を閉じる。すまん、やれる事はやったつもりだったがどうやら…。


キィンッ!!


「ヘヒャッ?」


金属音が響き、ロドクがマヌケな声を上げる。

その後、ガランガラン、とその場に何かが転がる音が。

ちらりと見るとロドクが持つ銃の砲身が中心から真っ二つになっていた。


「…はぁー…。間に、合った、かぁ…。」


安堵から俺は再びその場に倒れ込む。

そんな俺に声を掛ける奴は、ここの住人だったろう剣を持ったコテ。


「書き置き見てすっ飛んできたぞ!ってかやべーな、オイ。ロドクあんなんだっけ?」

「報酬もなしに強敵と戦えってそれなんて無理ゲー…まぁ、この街の為だって言うんなら、やるしかないけどさ」

「とりあえず、やっていい事悪い事、頭に直接叩き込まなきゃならんくらい、ロドクはガキだったって事だね。」

「違ぇ無ぇ。さぁ、行くぞお前ら!」


ぞろぞろと集まってきた無数のコテ、コテ、コテ。

コテ以外にも人型の奴も居るからこりゃまたややこしいな。ビジュアルが。

殆どがロドクが適当に作ったコテで名前も顔も無かったコテ達。その“バックアップ”

そう、心金柑がパソコンに残したパスワード付きのファイルだ。

俺達が皆、データで出来ている事を逆手に取って、アイツはそれぞれコテのバックアップをギリギリまで取っていた。

皆死んだ後の記憶は当然無いが元のコテと全く違いの無い本物だ。

一度隠れ家に戻った時、パスワードを解いて開いた訳だが、その中に更にフォルダが入っていて

1つは例のウィルス特効薬。そしてもう一つがこのバックアップファイルだった。

勿論特効薬を用意した後、そっちも開こうとしたんだが、これが驚くほどに時間が掛かる。

ダウンロードだか解凍だかが始まって全然動かない。だからそのままにして出て来た。

一応書き置きはやっといたからそれを読んでやっと皆ここへ駆けつけたって事だ。


「馬鹿…な…。全員、全員修正した筈、だった…何故、皆、変わらず…どうやって…」

「何故だぁああ!!!」


余りの事に正気を取り戻したらしいロドクが狼狽えて叫ぶ。

面倒だから一々説明してやるつもりはない。それよりも、今は…。


「ロドク。これでお前がやった事は全て振り出し。その上で一気に形勢逆転だ。」

「諦めろ!!そしてもうこんな事はやめ…」

「俺は悪役じゃない!!!」


突如そう言うとロドクは部屋の中心へと走っていく。

なんだ?一体何をやる気だ!?

何人かコテが走って追いかけていったが、突然に黒い光が現れたかと思うと、全員が吹き飛ばされ、戻って来た。


「な、な!?」


光が消え、ロドクが立っていた場所には黒く太い、塔の様な物がそびえ立っていた。

そしてそれはビルを突き破り更に空高くに伸びている。

…逃げたのか?

そう思って近づこうとすると、その黒い塔は唸り声をあげ、パチリと無数の目を開いた。


「うっわぁあえぐい!!」

「きもぉオオオオ!!」


口々に叫ぶ他のコテたち。…いや、うん、正直に言ってやるなよ。流石元はロドクの作ったコテだね本当…。

どうやら、この塔の様な物自体がロドクらしい。もはやどういう生き物なのか分からない。

その塔から、黒い触手が生えて、こちらへと伸びてくる。

あれに絡め取られるとどうなったもんか解りやしない。何とか逃げないと


「うわぁあああん!!」

「っ!」


鳴き声に振り返ると、子供のコテが転んで、今にも触手に襲われそうだった。

俺はすぐにそいつの元に駆け寄り、そいつに覆い被さるようにして目を閉じる。


「って、馬鹿ー!!何メインがそんな死亡フラグみたいな事やってんの!!」


キィンッ!と甲高い音と共に俺の背後で誰かが怒鳴る。

黒い体色に大鎌を持ったコテ。そいつは…。


「死忘!!」

「いやー、ほんと色々迷惑掛けたみたいで本当お恥ずかしい…記憶無いけど。ってことで、挽回させてね!」

「行くよ皆!!」


そう死忘が号令の様に叫ぶと、すぐさまやってきた中心から体色の違う奇抜なコテが素早くやって来て彼女を小突いた。

かてないさかなだ。


「痛ぁー!?え、何!?」

「貴方が指示を出してると何となく腹立たしいので交代を要請します。誰でもいいですから!」

「何だその理不尽なの!てか、今そんな場合じゃなくね!?」

「最優先事項!!」「んな馬鹿な!!」


そう言いながらかてないさかなは塔に向かって二刀流の太刀を振るう。

だが、黒い塔は硬く、歯が通らず跳ね返させる。


「よーっし!そういう奴なら私の“糊塗霧”の力の見せ所だなぁ!!ふん!!」


ドゴォッ!!

力一杯に振るわれるロボット、“糊塗霧”の豪腕。

一瞬塔が揺れ、目玉がぐるぐると回る様子を見せるも、大きく変化はない。

かと思えば次の瞬間、塔が火に飲まれた。


「いけいけ!やっきー!もやせー!」

「…。」


ヤキムシと閃光騨が絶えず炎をぶつけまくっている。

ギィイイ!!と鳴き声の様な音を上げる塔だが、果たして効いているのかどうか…。

だが次の瞬間、


ゾブッ!!


「うっわエグ!!」

「マジか!?」


siwasugutikakuniの刃が、塔の目玉に突き刺さった。

真っ黒い液体を噴き出しながら、塔がグラグラと揺れる。


…これで全員。そう、バックアップは“この街の住人全員”が用意されていた。

ウィルスに侵される前のロドクのコテ達。その中に死忘達も居たのだ。

記憶では確か最初からウィルスで作ってたと思うんだがな…。

もしかして心金柑、アイツ一からこいつら作った?どれだけの労力だよ…。

お陰で戦力はかなり上がっている。絶え間なく続く攻撃。状況は相変わらず優勢に見えた。だが…


「げぇ!!」「うわぁ、一瞬で直りましたね。どうします?これ。」


塔は非常に高い治癒能力を持っているらしく、生半可な攻撃では回復される様だった。

他のコテも同じく戦闘に加わり、思い思いに攻撃を加えているが状況は変わらない。

相変わらず、塔はただただそこにそびえ立っている。


「…この塔、何故こんなに高いんだろうな。」


ふと、糊塗霧が呟く。

そう言えばそうだ。巨大化して戦うならもっと適した形があるだろうに。

この“塔”は塔と言うよりは棒と呼ぶに相応しいただただ高く、長い円柱なのだ。

この形態にした意味が果たしてあるのだろうか?あるとすれば…。


「…上か!!」


俺は塔を登ろうと塔へと近づく。だが、やっぱ触手が伸びてきて全く触れられる気がしない。



「私に任せて!!」




…!



聞こえてきた声に、私は振り返る。


この、声は。

もう聞く事が出来ないと思っていた。けど、確かに聞こえた。

この街に来てから、そしてこれまで、私と共に戦ってくれていた、あの声。


「ユキ!!」

「えへ、おまたせ。もー、私が居ないうちにラスボス戦とかずるいよー。ってことで、一緒に行こう!」


ユキの背中にはこれまでは無かった白い翼が生えていた。

まるで天使のようなそれは、ちゃんと飛行能力を有してるらしく、これでてっぺんまで一直線だ。


「…てか、お前記憶あるのかよ…?」

「うん?あぁ、うん。あるよー。最期まで本当ありがとね。」

「けど、なんで…」


「僕が手を貸したからね」



そう言ってスタスタと眼鏡を掛けたコテが歩み寄ってくる。

もしかして、コイツが…


「心金柑…?」

「バックアップデータのユキとこれまでのDead Data状態の後もとに戻ったユキ…
   …まぁ丁度あの部屋のベッドで寝かされて居た死体があったからね。それとバックアップを同期させて
  どちらの情報も保持する事に成功したんだ。で、まぁ一度死んだからね。それでオマケでデザインも変更してみた」


それがこの羽か…って、それ皮肉としては相当問題ある奴じゃないだろうか。

だが、実際それがこれから役に立とうとしている。

ユキがバサッ、と羽ばたき、空へ浮かんだ所で、その足に俺が掴まる。

そのまま、上空へと飛び立っていった。

目指すは等のてっぺん。そして、そこに恐らくロドクがいる。

いつまでも駄々こねさせる訳にはいかねぇ、いい加減このお遊びも終わりにすんぞ!!




つづく


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